はじめに:祈りだけで富は手に入るのか
スピリチュアルな世界に魅了され、「引き寄せの法則」や「宇宙銀行」という概念に頼って富を得ようとする人々がいます。しかし、現実世界での富の獲得には、スピリチュアルな理解だけでなく、社会の仕組みや経済システムについての知識も必要ではないでしょうか。
「無知の自信」が生み出す幻想
ダニング=クルーガー効果というものがあります。これは「能力の低い人ほど自分の能力を過大評価する」という認知バイアスです。スピリチュアルな世界に没頭するあまり、現実世界の仕組みを無視してしまうと、このバイアスに陥りやすくなります。
例えば、子供が
「視力が悪いのにパイロットになりたい」
「女児が力士になりたい」
と言うのを聞くとき、社会の仕組みを知っている人であればその難しさを理解します。もちろん、社会の仕組みは変わることもあります。『若草物語』のナンのように、医者になれるのは男性だけという時代のアメリカに育ちながらも医者になることを目指し、時代とともに制度が変わって夢が叶うこともあるでしょう。しかし、それには「膨大な複数人が共同創造する仕組み(例:法律など)が変わるプロセス」が必要です。
現実的に実際どうするの、という可能性を検討することなく、ただスピリチュアルで祈ればどんな願いも叶うと信じきっている人だと、まさにダニング=クルーガー効果にいう能力の低い人がその低さゆえに自信過剰になっているのと同じではないでしょうか。
大金を持つことで起こる現実的な問題
仮にスピリチュアルな力によって突然大金を手にしたとしましょう。しかし、そのお金を管理する知識がなければ、かえって破滅を招く可能性があります。
例えば、宝くじの高額当選者の中には、散財や詐欺のターゲットになり、破産してしまう人が少なくありません。また、親族や友人から金銭の無心を受けたり、大きな買い物の際に悪徳業者に騙されたりするケースも多発します。つまり、ただ大金を得るだけではなく、それを維持し、適切に使う知識が必要なのです。
お金持ちの「裏事情」を知っていますか?
それに、一般の人々が憧れる「社長」や「芸能人」の世界には、表からは見えない複雑な現実があります。
例えば、株式会社の社長には無限責任が伴い、倒産したときなどに会社の負債総の全額を支払う責任を負うことになります。
芸能人がCMに出演して何億円もの報酬を得る裏には、スキャンダルが起きた際の巨額の損害賠償条項があることも。
昭和時代には、俳優に大きな仕事を与えて売れさせ一時的に莫大な利益を得させた後、映画製作などの名目で億単位の借金を背負わせるという手法も存在しました。
お金の本質を理解する
お金とは本質的に「人間を相手に、商品やサービスなどその金額に値するとみなされたり合意したりしたうえで結ばれる売買契約で授受される対価」です。
スピリチュアルな「宇宙銀行」の概念を信じることも自由ですが、現実社会で機能するお金は、正規の流通経路を経て手に入れたものに限られます。宇宙銀行がくれるお金が、正規の流通経路を経ているのならいいのですが……。
富の獲得と税金の現実
仮に正当なビジネス(や宇宙銀行からの振込)で大きな収入を得たとしても、税金という現実があります。
宇宙銀行からの振込が贈与に相当するとなれば贈与税が発生しますし、サラリーマンなど労働者の労働収入に対しては最大55%もの所得税が課せられます。
一方で、富裕層になるほど税制の「抜け穴」を活用する知恵も持ち合わせます。創業株券を担保に低金利で借り入れを行ったり、宗教法人や大企業が巧妙に税金を回避する方法を駆使したりする例は少なくありません。
金持ちを漫然と「ズルい」「きっとよっぽど悪いことをしたはずだ」などと無責任に揶揄しているだけでは永遠に経験して知ることができない知識やそれを使いこなす技能、大小さまざまなリスクがあっても行動に起こし平静さを保つという強靭なメンタルetcがあるのです。
そうした、下手げな貧乏暮らしよりもはるかにシビアな現実に飛び込んで揉まれて自分を鍛えたいという修羅道を歩む覚悟があるのなら、どうぞどうぞ祈りで突如として億万長者になることを願えばいいと思いますが……。
スピリチュアルと富の追求:その先にあるもの
そもそも漠然と「祈って億万長者になりたい」と願うとき、私たちは本当に何を求めているのでしょうか。もし本当にその願いが叶ったとして、いったいどんな人生を送ることになるのでしょう。地球や社会に対して何を残し、何を学び、どんな貢献をするのでしょうか。生まれてきたときより世の中を良くして逝くという考え方がありますが、あなたはこの世のどの部分をどのくらい、どのように良くしてから去ろうとしていますか?誰を笑顔にするために生まれてきたのですか?
昭和時代に起業した人々の多くは、
「この世にまだない性能を実現して世の中を便利にしたい」
「地域に雇用を創出したい」
という「結果として利他」な理念を持っていました。というか、自分と他人の境界線が良くも悪くも曖昧で、「私たち」という一人称複数形で助け合ったり、のし上がってみせるという大志を抱き続けたからこそ、成果を出せたのではないでしょうか。
突然の億万長者化はよほどのイレギュラーだとして、基本的に人が大きなお金を得るためには、その金額に相応するだけの大きな動きが必要で、そのために気まぐれで揺らいだりしない不屈の動機が必要なのです。
まとめ:本当の豊かさを考える時
単に「働くのが面倒だから」「のんべんだらりと暮らしたいから」という理由だけで、スピリチュアルなパワーを使って億万長者になろうとすることは、人生の可能性を狭めているかもしれません。
もちろん、個々人の生き方は自由です。しかし、限りある人生において、ただ与えられたお金で安穏と暮らすことだけを求めることが、本当に満足のいく人生なのかどうか。スピリチュアルな成長と現実世界での知恵をバランスよく育むことで、真の豊かさに近づけるのではないでしょうか。
スピリチュアルな力を否定するわけではありません。しかし、それと同時に現実世界の仕組みを学び、自分がどのように社会と関わり、貢献していくかを考えることも大切なのではないでしょうか。